〈専門店型ビジネスの海外進出〉
海外事業責任者の選定
「専門店型ビジネスの海外進出」と題して、飲食店や物販型ビジネスなどの専門店が、どのように海外進出を計画、遂行していくかについて、シリーズでお伝えしております。第三弾は「責任者をアサインする」になります。
海外進出の責任者を決める上で、考慮すべき点があります。それは「経営者自身が海外事業の責任者となるか」、それとも「右腕となる役員、従業員を海外事業の責任者にするか」、または「外部から採用するのか」という点です。では、どのような点を考慮して判断を下せばよいか考えてみましょう。
(1) 経営者自身が海外事業の責任者となる場合
安定的な利益を生んでいる国内事業がある場合、この国内事業の運営は「経営者しかできないのか」、それとも「他の人材でもできるのか」を考えましょう。もし、「他の人材に任せられる」という場合は、経営者自身が海外事業に注力することが可能となります。
「日常の事業運営を任せるのは不安だ」という経営者は多いですが、実は役割的に異なるため、思い切って任せてしまうのも手です。経営者、特に自分で起業して事業を作った経営者の場合「何もない所から事業を作る」、つまり0(ゼロ)を1にする仕事が得意である場合が多いです。この0を1にする素質を持つ人は少ないため、貴重な能力です。
ちなみに、0→1の人材は少ないですが、1を2にする人材、また1を10にする人材は多くいます。0から物事を作ることはできないが、出来上がった枠組みを伸ばす仕事はできる、という人材です。もし社内に「1→2が得意な優秀な人材」がいたら、猶予期間を持ったうえで育て上げ、国内事業を任せ、経営者は海外に注力するのは優れた方法です。
(2) 既存の役員、従業員を海外事業の責任者にする場合
何年も一緒に事業をやってきた役員や従業員を、海外事業の責任者に抜擢する方法です。例えば、新店出店時の店長経験があるなど、小さいながらも「0を1にした経験」があり、事業運営や人材マネジメントも優秀である人がよい例です。
事業についても精通しており、経営者とのコミュニケーションも問題なく、信頼の蓄積があるため、多くの企業は海外事業展開に際してこの選択肢を採用します。そして海外進出で事業を伸ばすことに成功した経営者の話を伺うと、「執念深い、諦めない人材であることが最も重要」と口をそろえて言います。
語学や海外経験といったスキルは後から習得できます。また、通訳を付けるなど他の人の力を利用できます。しかし、困難に対してどのように立ち向かうか、何とか食い下がって経営を続けられるかという点は、簡単に身につけることができません。よって、「どれだけ修羅場をくぐってきた人材か」も判断基準に加えるべきでしょう。
なお、「いくつか足りない要素がある」という場合は、半年、1年と期間を決めて国内で大きな仕事を任せてみるなどして、人材の成長度合いを見てから、海外事業責任者に抜擢することも良い方法です。
(3) 外部から海外事業責任者を採用する場合
外部から海外事業責任者を採用するのは、大企業であればお勧めできる選択肢となりますが、中堅以下の企業では推奨できません。これは、「事業のシステム化」と「人間同士の力関係」という2つのキーワードで説明できます。
例えば大企業の場合、既に店舗展開のノウハウが蓄積されており、出店基準や撤退基準などシステム化されています。この場合、個人の能力よりも、ノウハウやシステム力を利用して店舗の展開を行うことができます。海外事業の場合、国内とは異なる点もありますが、流用できる部分も大きいです。このような場合、「既存のノウハウとシステムを活用して海外事業展開を任せる」ため、外部からの人材採用が有効に働きます。進め方、進むべき方向性、目安となる数値が明確だからです。
逆にベンチャーの企業である場合は、ノウハウやシステム化が十分でないため、海外事業責任者の経験や個人の能力がより多く問われることになります。もちろん、十分に経験がある人を外部から採用してはいますが、こうした人材は長年勤めてきた人材とは異なり、本当の意味での能力や経営者との相性などは未知数です。よって「高いお金を払ってきてもらったが、実はそこまで優秀でなかった」「経営者との相性が今一つだった」ということになってしまいがちです。
また、能力が高かった場合、海外事業は順調に成長する可能性が高いですが、「私のおかげで海外事業が伸びている」と責任者が考えがちなので、経営者との力関係がいびつになります。経営者からあれこれ言われたくないために、海外事業が「海外事業責任者の独立王国」、ブラックボックス化されることもあります。こうなってしまうとコントロールを利かせるのが大変ですし、解任する場合にひと騒動起こることもあります。
よって、ベンチャー企業では、海外事業責任者は経営者本人、もしくは信頼できる既存の社員をし、ノウハウが必要となった場合は外部のコンサルティングを使うに留めることが効果的です。